異なる視点で考える

組織を前進させるもう1つの多様性、すなわち「思考の多様性」もまた、取り入れるのが難しいものです。思考の多様性とは、『Diversity’s New Frontier』でAnesa “Nes” Parker（旧姓Diaz-Uda）、Carmen Medina、Beth Schillが述べているように、「一人ひとりのユニークな視点や異なる考え方がもたらす潜在的な可能性を認め、評価することによって、人の可能性を最大限に引き出し、ひいては組織の可能性を引き出すこと」⁵です。ただし、多様な考え方が組織にとって課題となることもあります。MedinAnalytics LLCのオーナーであるCarmen Medinaは、「大きな組織が抱える病の1つは、平穏を重視すること」だと言います。「平穏を重視すると、思考の多様性を切り捨てることになります」。その結果、意見の一致を優先したり、間接的にやる気をくじく言葉を使ったり、異議を唱える余地がなくなったりするなど、ちょっとした壁が生じます。

Medinaが指摘するように、多様な考え方を測定できる優れたアセスメントツールは存在しないのですが、多様な考え方には、直感的にわかる大きな利点があります。Parker、Medina、Schillによると、思考の多様性が存在する職場は画一的な思考に陥りにくく、新たな視点が生まれやすくなり、特定の職務にふさわしい経験的知識を持つ人材を見出しやすくなります。⁵

Chemours（ケマーズ）社の人材管理スペシャリスト、Bailey Willemsは、広く多様な考え方を認めることで、組織は「人をある方向に向かわせている無意識のバイアスや潜在的な信念」を明らかにできると話します。自らの経験または心の動きに裏付けられた様々に異なる視点を持つ人々は、これまでの慣行に疑問を投げかけたり、さもなければ気づかなかったであろう点を指摘したりすることができるとWillemsは考えています。

長い道のり

包括性と多様性に優れた企業がしばしば経済的な利益を享受していることを考えると、人材の多様性を高めることは広く行われるべきです。しかし、そうなってはいません。 

あらゆる業界を横断して調査した統計を見てみると、米国では人口の13%以上を黒人が占めていますが、上級管理職に占めるアフリカ系米国人の割合はわずか4%です。米国の人口の18%以上を占めるヒスパニック系住民も同様に、上級管理職の4%しか占めていません^4、7。

STEM企業の中でも、特に黒人女性の状況はさらに厳しいものがあります。2016年に黒人女性が取得したSTEM分野の学士号は33,000件です。この年、黒人女性に授与された博士号のうち、24%がSTEM分野のものでした。しかし、STEM企業の管理職に占める黒人女性の割合は5%に過ぎません。

このことから、5年後には米国だけで100万人以上のSTEM分野の人材が必要であり、より多くの人々の中から優秀な人材を見つけ出さなければ、そのニーズを満たすことができないという課題が明らかになります。

多様な人材を登用し、多様性から生まれるイノベーションや経済的利益を享受するには、どうすればよいのでしょうか。

多様なアプローチ

すべての答えを知っている人が存在しない以上、注目と努力が注がれるのがソリューションです。STEMの多様性にまつわる問題は学校で始まっていることが多くあります。多様性に欠ける環境のために、科学を学ぼうとする女子生徒の意欲がそがれてしまうのです。CalTeach/Mathematics and Science Teaching Program（CalTeachおよび数学・科学教育プログラム）は、この問題を解決するため、STEM分野の新卒者を幼稚園〜高校3年生の教室に派遣しました。このプログラムは、数学と科学の教師の数を増やし、新しい教え方を紹介して、STEM分野に進むことを考えたことがない子どもにもこの分野に挑戦してもらうことを目的としています。

企業も教室に参加し、STEMがすべての人にとって素晴らしい可能性を秘めた分野だと示そうとしています。Willemsが言うように、「Chemours（ケマーズ）などの化学企業が、社会や学校との交流を通じて、この分野に携わる人々の生活を紹介し始めています」。こうした取り組みは、子どもたちが科学の授業で行っていることを、興味をかき立てるやり方で現実の世界と結びつける効果があるといえます。また、多様なSTEM分野の卒業生を増やすことを目的とした、官民の幅広いパートナーシップとも足並みをそろえています。この取り組みや奨学金プログラムによって、Chemours（ケマーズ）があらゆるコミュニティの優秀な人材に投資することが可能になります。

人材のパイプラインを強化することは大切ですが、STEM分野の職場は、あらゆる背景を持つ人々を歓迎し、多様性をビジネスの必須条件とする必要があります。Medinaによると、「実際の影響という観点において最もうまくいった多様性プログラムは、多様性の取り組みをミッションに包摂して進めたプログラムでした」。とはいえ、その場合でも、企業が採用活動を改善しないのでは十分とはいえません。Willemsは、「より広い範囲に網を張り、通常は候補に挙がらないような志願者を確実に採用できるように、忍耐強く探したいのです」と述べています。社会的弱者の職場での経験を変えることもその一部です。Kelliherによると、「当社のすべての工場に出した課題は、工場や施設で女性や他の人種の人をより包摂的に迎え入れることができるように、今年自分たちにできることを1つ決めるということです」

まさにそれが重要です。デロイトのAnesa “Nes” Parkerは、「同じ席に着くことが多様性（ダイバーシティ）で、実際に自分が意見を述べ、何らかの役割を担っていると感じられるのが包摂（インクルージョン）」だと述べています。本当の意味での多様性の包摂（インクルージョン）は、そこからが本番です。Willemsが述べているように、「毎年達成すべき数字をチェックリストにするだけではなく、包摂的な環境を作り出すことによって、私たちのあらゆる取り組みが成果につながります」。このような環境を育むのは、あらゆる背景、あらゆる考え方、あらゆる視点を持つ人々から選ばれた人材が存在することと彼らの貢献を求める包摂的なリーダー（インクルーシブリーダー）です。ケイティ・バウマンのような人は、世界中の人々や技術の貢献を結びつけ、これまでになかったことを行い、これまで誰も見たことのなかったものを私たちが経験できるようにします。

Parkerは「包摂的なリーダー（インクルーシブリーダー）は大きな影響を及ぼします」と述べています。包摂的な企業（インクルーシブカンパニー）も同様です。